公開: 2023年3月31日
更新: 2023年4月23日
米国社会では、幼稚園教育から高校4年生までが義務教育とされています。この間の教育費は、各学校が所属している「学区」単位で収集される、教育税によって賄われています。教育税は、所有する家の敷地面積に比例して決まります。庭を含めて大きな家であれば、高い教育税を収めなければなりません。教育税全体の額は、各学区の学校のPTAが作成した予算案を基に決められます。PTAと校長が協議して作成した予算案について、住民投票を実施し、賛成多数であれば予算案は認められます。
この制度では、裕福な家庭が多い地域では、多額の予算案でも認められる可能性が高くなることを意味しています。さらに、子供の教育に熱心な親たちが多い地域では、多額の予算が認められます。このことは、学区によって、どんな人々が住むかが違ってくると言う問題を生み出します。親の平均学歴が高い地域ほど、高い教育予算が通るからです。教育予算が豊富であれば、優秀な教員を雇用できますし、教育設備にも投資ができます。日本の場合は、学校の教育予算は、住む地域に関係なく、文部科学省が一定の予算を計上し、各地方に配分しています。
米国社会の場合、教育熱心な親が多い地域の場合、親たちは、校長先生と話し合い、優秀な教員を集めようとします。そのためには、十分な予算を確保しなければなりません。また、最近では、教室内で利用するコンピュータには、より性能の良い物が必要になります。そのためにも、予算が必要です。小中高と一貫した思想での教育を望む場合、その目的に合った教員を集める必要もあります。PTAが作成した予算案が高額になれば、地域での投票で否決される場合もあります。その場合には、PTAが独自で、財源を探す場合もあります。例えば、企業からの寄付金や個人の寄付などです。
米国社会には、「マッチング・ファンド」と呼ばれる制度があり、例えば、企業の従業員がある額の寄付をした場合、同額をその従業員が勤務する企業も献金しなければならない社会慣習があります。この慣習を利用して、大企業に勤務する親から、個人的な寄付を集め、その社員が勤務する企業から同額の献金を集めることができます。このような方法を駆使して、PTAは、予算案に近い資金を集めようとするのです。教員の給与は、基本的に勤務が予定される期間だけ支払えば良いので、給与の総額は、月の給与の12か月分にはなりません。教員の勤務期間を調整することでも、目的を達成できます。
このような社会的背景から、米国社会では、学区別に似たような教育思想をもった人々が集まって住む傾向が見られます。つまり、親の職業、学歴、収入などが似たような人々が、同じ学区内に住む傾向が見られます。そのため、新しい家を買う場合や、新しい土地に移住する場合、との学区に移るかも重要な問題になります。このことは、社会の分断を作り出す原因の一つにもなっています。当然のことですが、「良い学区」と評価されている土地の家は、高額で売買されるため、裕福な人々しか買えないのです。